5.0
古代ヒッタイト史というマニアックかつ未解明な3300年以上昔の文明を舞台に、現代の女子中学生(ヒッタイトに飛ばされた当時)が奮闘する物語。
そうとだけ書くと、よくあるタイムスリップもののような気がしてしまいますが、読後の感想は、どっしりとした歴史マンガだと感じました。
私自身、はじめは主人公のユーリが現代人であることの必要性を疑問視していましたが、彼女の感性の裏付け、そして古代のメソポタミア文明に馴染みのない読者が物語の世界に入り込むためのエッセンスとして、その設定は大いに意味があったと思います。
それと同時に、まだ未解明の部分が多いとはいえ多数存在する学説や史実をきちんと踏まえ、古代ヒッタイト帝国のムルシリⅡ世の皇子時代からのストーリーを非常にドラマチックに描き上げた大河として、本当に楽しむことができました。
滅亡した帝国の史実を舞台にするというのは、ほとんどの場合、読者は、その先の帝国の「悲劇」を知ることができます。
ムルシリⅡ世の治世の平和は史実ですが、この世界に思い入れを持った読者が登場人物やその子孫を憂うことになるのが歴史系の小説やマンの悲しいところ。
この作品は、本編、番外編ともにそのもの悲しさを漂わせることさえあれど、悲観することはなかったように思います。
本編は「タワナアンナ」というテーマを一貫し、番外編でも主人公の性格と同じように、前向きで希望に満ちた完結を迎えて終わることができたのではないでしょうか。
彼女の子孫が日の昇る国にたどり着き、ヒッタイトが鉄を手にした頃にはまだ土器を作っていたその国に製鉄技術を持ち込み、そしてその血が主人公に受け継がれたのかも…と、読後もしばらく想像を膨らませ、余韻に浸ることができました。
主人公ユーリが美しい大人の皇妃に成長した姿が見たかった気もしますが、それはそれ。
終わり方云々を不服とするレビューも多く目にしますが、私は綺麗な終わり方で、さすがだな、と感じました。
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天は赤い河のほとり