4.0
モヤモヤしたまま
作品として好きか嫌いはともかく、だいぶエグい作品で、読んだあとは気分がかなり落ちます。
色んな人目線で話が進むので、確かにそれぞれの人物の心情は理解しやすいのですが、父親の言動だけは理解に苦しみました。
すでに自分のキャパはオーバーしているくせに、妻の考える「普通」に無理やり合わせようとしている。
弱い立場の女性や子供を助けたいというのは、本心ではないと思います。
そもそもが、ある程度自立した人間から頼られることがない非力な男性であるが故に、必然的により社会的弱者であるか弱い人間にしか頼られることもないのです。
しかも、頼られるというより「頼ってください」と自分から言わんばかりのムーブで、人から頼られるに足る人間性でもない。
それを「頼られているんだ」「必要とされているんだ」と勘違いして、本来守るべき家族を蔑ろにしている大変哀れな人です。
手元にある妻や娘のことは置いておいて、きっとそれは自分にとってはあまり居心地がいいものではなく、勝手に抱いている期待値に見合わない家族だから捨てたのでしょう。
結婚する前の描写も少しありましたが、当時から周囲の人間に一体どんな振る舞いをしていたのか気になります。
一方で、主人公の女性の気持ちはすごく分かります。
私も毒家族育ちなので「普通な家庭」を理想とする気持ちが痛いほど分かります。
しかし、理想というのは追い求めるからこそ大抵の場合失敗するのであって、あくまで結果でしかないということを理解すべきです。
「普通って結局なんだろうね」「幸せってなんだろうね」とたまに考えながら日々を過ごすのが大半だと思いますが、そうやって勝手に出来上がっていく「家族との時間」や「思い出」を大事にしていくことで、自ずとノーマライズされていくのです。
主人公の女性は、そういう結果としての「普通」ではなく、自分の理想とする「普通」を旦那の価値観そっちのけで(=勝手に私の考えと同じなんだと決めつけて)形作ろうとした結果、旦那の居心地を悪くしていったように感じました。
娘さんも「普通な人と結婚したい」と言っていましたが、これは母親が普通を強く追い求めた結果、普通になるどころか家庭を崩壊させてしまうことになり、皮肉なことに、毒親や毒家族にならないようにした結果がこれです。
そういう誰も救われないところが、気分が落ち込む作品だなと思いました。
- 5
わたしは家族がわからない