5.0
地獄を抱えて
普通のサスペンスは、あくまでスリルや謎解きがメインで、それを彩るための「道具」や「舞台」を用意する。
その道具や舞台が不気味だったり特異だったりすれば、それがサスペンスを飾るカラーやムードになる。
そういう意味で、この漫画は完全に異色。
度肝を抜かれた。
主要な登場人物のほとんど誰もが少なからず「倒錯」しており、確かに、一種異様な雰囲気はある。
でもそれは、サスペンスの雰囲気作りのための「装飾」ではない。
トランスジェンダーを「イロモノ」扱いして、「一風変わった曲者たちが活躍するサスペンス」として描いたほうが、よほどノーマルだったろう。
繰り返し、この漫画の着地点は、そこではない。
むしろ、サスペンスを「道具」にしながら、何とか運命を切り開こうともがく人間の姿を描くことこそが、主眼なのではないかと感じた。
登場人物たちは、皆、屈折している。
倒錯している。
一面を見れば、そうだ。
でも、よくよく考えてみれば、私たちの誰もが、自分の内に地獄のひとつや二つ、抱えているのではなかろうか。
それが、時代性や社会性の中で、特殊なものとしてクローズアップされるかどうかの違いがあるだけで。
その地獄を抱えて、それでも地獄には落ちまいと、懸命に運命に抗う人間たちの姿に、胸が熱くなった。
本作の財宝は、その地獄に光を当てるための手段なのだ。
これほど美しく、価値ある「宝」を、私は他に知らない。
この漫画は、サスペンスの姿をした、人間讃歌だと思う。
ここまで書いて気づいたが、何かそれって、「ジョジョ」みたいじゃん。
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