5.0
はぐれ者たちのラブストーリー
山の主である大蛇に嫁入りすることになった女性の話。
あまり期待せずに読み始めたが、これはいい拾い物をした。
最新話までいっきに読んで、完結していない(続きが読めない)ことにため息を吐いた次第である。
人間の女性が大蛇に嫁入りをする、という昔話は実際にあるが、この場合、あくまで大蛇は悪者で、女性は被害者で、最終的には大蛇が退治されてハッピーエンド、となる。
そういう古典を全く別の角度から再構築して見せたような、ある種、チャレンジングなパロディである。
昔話を下敷きにしていながら、生物学的な蛇の特徴をきちんと踏まえているのも、細かいところだが、ポイントが高い。
脱皮や冬眠のくだり、目を開けたまま眠ること(というかそもそも蛇には瞼がない)、舌を出すのは匂いを集めるためであることなどを、上手に作品に取り入れていて、威圧感と威厳を放ちながらも可愛らしい大蛇の造形も含め、蛇への愛着を感じる。
作者はことによると、蛇好きだったり、蛇を飼っていたりするのかもしれない。
作品のタッチとしては、楽しさと切なさのバランスが絶妙で、読んでいてとても心地よい。
基本線は、蛇と人間の無理のある夫婦生活、という嚙み合わない面白さを上手に使った一種のシチュエーションコメディである。
が、それと同時に本作は、孤独を抱えるもの同士がお互いの傷を埋め合いながら、少しずつ距離を縮めてゆくラブストーリーでもある。
主人公の女性は村という共同体からつまはじきにされた存在であり、大蛇も大蛇で、絶対的な孤独を背負っている。
異種間の結婚、という特殊な設定ではあるものの、はぐれ者たちの真っ当なラブストーリーにきちんとなり得ているのが素晴らしい。
大蛇に敵討ちを果たそうとする僧侶の登場は、これが昔話であればヒーロー見参の場面なのだが、これまた本作の文脈では真逆の不穏さをまとっていて、やはり、上手い。
蛇と人間の異色のラブストーリーは、昔話とは全く別のハッピーエンドを迎えるのか。
はたまた、人間側の正義だけが果たされ、はぐれ者たちの悲恋に終わるのか。
今後も目が離せない。
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