4.0
設定を殺して
新鮮なのは、「元極道のコンビニ店員」という設定そのものではなく、むしろその設定の「殺し方」みたいなところにあるのではないかと思った。
本作は、いい意味で、とても慎重に設定を殺している。
もう少し誤解を避けて言えば、設定から想起されるありがちな展開を、実に巧妙に回避している。
私が何となく予想していたのは、次のようなストーリーだった。
元極道のコンビニ店員である島さんは、普段はおとなしく仕事をしている。
そこに何らかのトラブルが起きる。
例えば、悪質なクレーマーが来るとか。
そこに温厚そうな島さんが出ていって、クレーマーは「何だてめえは?」とかすごむけど、何かの拍子に刺青が見えてしまうとか、島さんが尋常でない殺気を放つとかして、クレーマーは「すみませんでしたー!」となる。
みたいな。
そういう漫画かと思っていた。
違う。
島さんは、元極道的なパワーを全く使わずに、あくまで温厚なままであって、その実直さや誠実さ、気配りや思いやり、洞察力、といったありふれた(?)人間的スキルでもって、コンビニの日常の諸問題を解決に導いてゆく。
それを、一種の人情話として描いた漫画である。
「ありがちな展開には絶対にしないぜ」という作者の気概が伝わるようで、その心意気や、よし。
ただ、こう書くと、「あれ?元極道って設定、要らなくね?」と思われるかもしれないが、そうでもない。
作中に流れるのは、すねに傷を持つ者が放つ独特の説得力と、「この設定がこの先で活きてくるんだろうな」という期待感だからだ。
そういう意味では、かなり緻密に組み立てられた漫画だと思うし、それはこの先の話で、実証されるのではないかと思う。
あとは、枝葉の部分になるが、作中、背中の刺青のワンカットで、島さんが元極道なのだ、ということをさりげなく提示するところなんかは、何ともセンスがあって、好感を持った。
- 980