4.0
ホラーの二重奏
土着系、民族系のホラーで、小説が原作(未読)。
個人的には好きなジャンルで、軽度な(よく言えばポップな)民俗学のバックグラウンドで味をつけた「ぼぎわん」の存在感はなかなか面白かった。
題材は目新しいものではないが、本作の見せ場は構成の妙で、原作がホラー大賞を受賞したのも、おそらくこの構成力が評価されたのが一因かと思われる。
三部構成で、第一部が夫、第二部が妻、第三部が事件を追う記者の視点から、それぞれ綴られる。
私は、第一部から第二部への切り替えの見事さに感心した。
第一部を読むと、語り手の夫は普通のサラリーマンで、妻と子どもを守るために怪異に立ち向かうオーソドックスな主人公として映るのだが、まずこの夫が、第一部のラストで死ぬ。
そして第二部では、その夫が、妻から見れば、実は半ば死んでほしいくらいに疎ましい男だったことが明らかになる。
この描写が、凄い。
何が凄いって、夫が実は不倫をしていたとか、とんでもない過去の秘密があったとか、そういうことは一切なく、ただ単に、夫が見ている世界と妻が見ている世界が全く違った、という描き方をしている点である。
現実とは多くの場合、こうなのだろう。
主観と客観のズレ、というか、誰かの主観と誰かの主観のズレ。
「寄生獣」の中で、ミギーが「仮に魂を入れ替えることが出来たなら、全く違う世界が見えるはずだ」という意味のことを言っていたが、私たちはそういうズレの中に生きており、そのズレが許容量を超えて乖離したとき、例えば夫婦関係が破綻したりする。
それに気づかないのはだいたい男の方で、本作も然りである。
本作はいわゆる「人怖」のホラーではないが、「ぼぎわん」という怪異の恐怖と、人間関係にまつわる人の愚かさという一種の恐怖が二重奏となって、とても興味深かった。
ところが、問題は第三部である。
「ぼぎわん」という正体不明の怪異を描く第一部。
オカルトの恐怖に人間関係の恐怖を重ねつつ、謎解きが進む第二部。
そして第三部は、雑に言うと、霊能バトル漫画に近い、イメージ的には。
どうしてこうなったんだろう、と私は首を捻ったが、もしかしたら作者が本当にやりたかったのはこれなのかもしれない。
だとしたらしょうがない。
しかし、私はこのジャンル変更みたいな展開にどうにも乗っかれず、第二部までが楽しかっただけに、ちょっと残念だった。
- 5