4.0
手放した文学
読み始めたときから、必ず最後まで読んでから評価しようと決めていた。
どんな作品だって結末は大切だが、これは特に、そういう種類の作品だと思ったからである。
不運から多くを失い、自暴自棄になって自殺を決意した男と、その男から強_盗の被害にあった人妻が、北海道へ蟹を食べに行く。
その無茶なストーリーにも、最初は都合よすぎるように思えた人妻のキャラクターにも、不思議と説得力を与える力業は、なかなか大したものだと思った。
平和で、儚く、危うい、二人の死への旅路。
その綴り方は実に叙情的で、ときに詩的で、純文学のそれに近い。
作中、太宰治への言及があったり、人妻の夫が小説家だったり、作者のひとつの意図として、漫画で文学をやる、ということがあったのだろうと思う。
それも、あまりにクラシックな、「心中物」という文学を。
その心意気やよし。
だからこそ、このラストはいただけない。
二人のうち、少なくとも一人は、死ななければいけなかったと私は思う。
というか、読み始めたときから、そういうラストでなければ、少なくとも星五つはつけない、と決めていた。
死をもってこそ、それまでの全ての道行きが、深い悲しみとともに、特別な鮮やかさと美しさと切実さで読者の胸に蘇り、また、長く残る。
そういう種類の作品になり得たし、なるべきだった。
いくぶんの偏見を込めて言えば、それが文学だと私は思う。
そういう意味では、文学を志しながら、最後の最後でそれを手放した作品、ということになる。
しかし、作者はそんなこと、わかっていたはずだろう、とも思う。
わかっていながら、こういうふうに、描きたかったのだろう。
描きたかったなら、描くべきだ。
この結末は、作品としての整合性や世界観や完成度よりも、登場人物に対する、作者自身の愛情や愛着を選択したものであるように私には感じられた。
作者はきっと、この二人を、幸せにしてあげたかったのだろう。
その思い入れみたいなものは、嫌いではない。
だから、文学を手放したこの結末の是非を、私はもう、問わない。
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