5.0
胸が痛くなり、そして温かくなる物語
若かりしき頃に読んでいたのがなつかしく、再び読みました。
両親を同時に亡くしたことで感情を失った女子高生・蝶子と、その遠縁にあたる純文学作家・京が同居をすることで、お互いの心のうちにある淋しさや罪(本人はそう思い込んでいる)を共有して行く中で愛情が芽生え、心の闇を乗り越えていきます。
無料配信分だけでは、この物語の素晴らしさは語れません。
本当に胸が締め付けられながらも、温かい気持ちになります。
心がキレイすぎるがために繊細で、京の傷を一緒に受け止めその闇に引きづりこまれそうになる蝶子と、自らの出自により深く傷つき、自分自身をさらに傷つけようとする京の純愛は見ていても痛々しくありますが、後には陽だまりのような暖かさに包まれます。
全体的に穏やかな空気が流れるなかで、狂気のような空気もまとう温暖さの激しいストーリーでもあります。
なかでも京の大学時代の友人で担当編集でもある自称・京の親友、秋山の底抜けの明るさと軽妙さの中に見え隠れする京への敬愛と深い友情、蝶子への庇護心が暗くなりがちな物語に光を照らしています。
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