4.0
モラトリアムってのは
昔の恋人が部屋に転がり込んできて、今の恋人との間で揺れる大学生の話。
「主人公の男がフラフラしててムカつく!」
「はっきりしろよ、許せない!」
という批判は、すーごくわかる。
わかるが、まあ、聞いてくれ。
私は、人の過ちに対しては、極力、寛容でありたいと思っている。
私自身、阿呆な間違いを繰り返して生きてきたし、いまだにそうである、ということを自覚しているからだ。
他人がどれほど許しても、自分自身では許せない、という種類の過ちを、多くの人が背負って生きている、ということを知っているからだ。
この漫画の主人公と全く同じ経験は、私にはないし、この漫画を批判する多くの読者にとっても、ないのだろう。
「私は絶対にこんなんじゃないし」と多くの人が思うのかもしれない。
でも、どうだろう。
時代や、場所や、相手や、シチュエーションが違うだけで、つまり、表面的にはまるで違う事象に見えるだけで、自分の弱さや、流されやすさや、優しさに見えるだけのただのエゴや、不要な同情や、自らの感情の選択ミスや判断ミスみたいなものに起因する、「何であんなことやっちまったんだろう」という決定的な過ちは、誰だってひとつや二つ、持っているのではなかろうか。
そういう痛い経験を経て、「本当に大切なものが何かを見誤ると、人生、えらいことになるんだな」と学んでいくのが、若さ、というものではないだろうか。
私たち皆が、はじめから立派な大人だったわけじゃないだろう。
許してやれよ。
ましてや主人公は、既婚の社会人じゃないんだぜ。
そういう愚かさを許されるのが、モラトリアム、ってものなんじゃないのか?
私はそう思うから、この漫画の主人公を嫌いになれなかったし、軽蔑もできなかった。
どういう結末になるにせよ、こういう種類の経験は、いずれ苦い傷となっていつまでも残ることを、彼より長く生きているぶんだけ、知っているからだった。
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