4.0
母だけであることなど
「恋する母たち」というタイトルだけでもう、少なくともこの国においては、ちょっとしたタブー感がある。
例えば、「父親が浮気をしたときのショックと、母親が浮気をしたときのショックは同じか?」という文句を聞いたことがある。
自分を差別的だと思うし、先の文句は男性の浮気を正当化するための方便かもしれないが、少なくとも私は、同じようには受け止められない。
仮に父親が浮気をしても「ばれないようにやれや」くらいにしか思わないが、母親だったら、これまでの関係性を維持できる自信がない。
例えばそれくらい、「母」は、「母」だけであることを求められてしまいがちなのだろうと思う。
人には、父親とか息子とか姉とか叔母とか夫とか妻とか会社員とか上司とか部下とか、様々な属性が付与されるが、その中で「母親」という属性は、あまりにヘビー過ぎやしないだろうか。
あー男でよかった。
まあ、それはいい。
それはいいのだが、よく考えてみれば、母が母だけであることなど、絶対にないのだ。
その厳然たる事実を、この漫画は、極めて自然に表現している。
そこが、凄い。
誤解されないよう書いておくが、「母である前に一人の女よ、恋だってしたいわ!」というような漫画ではない。
この作品はもっと、何というか、人間的だ。
三人の母親たちが、必死で生きてゆこうとする中に、たまたま、恋、というものに出会った、というか。
「母は強し」と言う。
確かにそうだろうし、それは素晴らしいと思うが、一方で、母親が弱いことを許さないような非寛容さみたいなものも、社会にはあると思う。
母親である前に女、という命題には賛否あるだろう。
だが、少なくとも私たちは皆、ただの人間だ。
人間は、あり得ないくらい強かったり、悲しいほど弱かったりするものだ。
その当たり前の事実をきちんと、そして愛情を持って描いた、とても真摯で鋭い漫画だと思う。
- 32