5.0
クスリのない人生
作品の最初の方は、そこまで特別なリアリティーを感じず、首を捻った。
言い方は悪いが「報道番組程度のリアリティー」であって、多くの読者が「知っている」範囲の情報の量と質なのではないか、と思ったのだった。
しかし、読み進めるうちに、見方が変わった。
この漫画の強みは、「単発」のリアリティーのインパクトではなくて、むしろその「積み重ね」にあるのではないか、と感じた。
つまり、クスリを巡る様々な人々のリアリティーの、多様さである。
大学生、主婦、フリーター、教師…色々な社会的立場にある人間たちが、どうやって道を踏み外していったのか。
そこにあるのは、クスリの危険性や恐怖の問題だけではなく、日々の中で、人がいかに迷い、悩み、苦しみ、悪魔と手を繋ぐに至るのか、という人生の落とし穴の様々な形であって、それを多彩に描き分ける取材量と力量には、感心させられた。
この漫画で描かれた全ての落とし穴と絶対に無縁で生きられる、と断言できる読者は、おそらく、あまりいないのではないか。
個人的には、教師の話と、漫画アシスタントの話が好きだ。
この二つのエピソードを読んで、作品の見方がまた変わった。
この漫画は、ただ「クスリによって破綻した人生を描く」だけではなく、「クスリのない人生をどう生きるか」ということにも、きちんと向き合っているのだった。
そこには、当然なら、唯一絶対の答えはない。
何にもすがらず生きるには、ときに人生は、あまりにハードモードかもしれない。
ただ私は、この漫画を読んで、クスリに頼らず生きる人生の方が、少しだけ、美しいような気がした。
それは作品の意図に誘導された、ガキっぽい感想である。
だが、読者がそう感じ得る作品であるというだけで、クスリを扱った漫画としては、既に成功しているのではなかろうか。
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