漫画界の弁護士列伝~異議を唱えるは変人ばかり!?~
更新日:2017/02/17 10:00
近年、裁判や法廷が題材のテレビドラマや映画がブームです。漫画における法曹界もその例にもれず、数々の作品が生まれてきました。今回はその中から弁護士が主人公の作品を4作ピックアップ。それぞれのキーワードは「守銭奴」「正義漢」「貧乏篤実」「型破り」。複雑にねじれたトラブルを解決に導き、混沌とした社会を生き抜くための知識と力を授けてくれる――そんな変人弁護士たちをがっちりご紹介します!!
とにかくカネがほしい!! 「守銭奴」弁護士
何かと揉め事が絶えない現代社会、弁護士に相談を持ちかけるなら、なるべく穏やかな人であってほしいと思うばかりです。しかしこれから紹介する弁護士は、ひじょうにお金にうるさい。……そんな奴に弁護されたくない? まったくもってそのとおり……。
ということで紹介するのは「強欲弁護士 銭高守」 (井浦秀夫/小学館) です。
まさしく金銭欲まみれのタイトル。なのですが、作者の名前を見て、おやっと思った方がいらっしゃるかもしれません。そう、テレビドラマ化もされたあの弁護士漫画『弁護士のくず』(小学館)の作者です。実はこの作品、『弁護士のくず』より前に描かれたものなのです。
痴漢の汚名を晴らしてほしいと依頼され、即座に500万円を要求するこの男こそ、「守銭奴」弁護士の銭高守。『弁護士のくず』の九頭弁護士とはまるっきり違う、大仏顔のオヤジであります(ちなみにこんな見た目でも30代前半)。
その悪人面から、ヤクザと勘違いされることもしばしば。こんな人に間違っても相談したくない、と思わざるを得ません。が、この弁護士、お金さえ渡せば、クライアントの依頼を鮮やかに解決する、敏腕弁護士なのです。
彼のもとに舞い込むのは、痴漢冤罪、ストーカー、家賃敷金トラブル、損害賠償請求といった、身近なものばかり。キャラクターに目が行きがちですが、弁護士監修のもと、問題のポイントとなる部分がしっかり整理されており、争点もきれいに解説してくれるので、法律入門漫画としては必携です。
高額の手数料をもらい、手練手管を尽くして見事にクライアントの痴漢冤罪を晴らしてご満悦の銭高氏。「依頼人の利益っつーのは金の額じゃない! 納得だ!!」というのが、彼のセオリーです。
僕は弱者を救うために全力を尽くす!! 「正義漢」弁護士
お金の話ばっかりだったので、次はひたすら正義のために突っ走る弁護士の物語をご紹介。
「ホカベン」
(中嶋博行、カワラニサイ/講談社)
は、新人弁護士が、法律に虐げられる弱者を救うため奔走する熱い漫画です。
まずは主人公である「正義漢」弁護士・堂本孝の顔をご覧ください。
いかにも情熱を抑えきれないといった感じの、まっすぐな青年です。
100人以上の弁護士を擁する法律事務所「エムザ」に入所した彼は、一般市民のための法律よろずお助け屋のような部署「プロボノセクション」に配属されます。
部署のリーダーにさっそく挨拶し、「弁護士は弱い者を守ることができる」と信条を語る堂本でしたが、さっそく弁護士世界の先輩からの洗礼を浴びることになります。
……こんなこと言われたら、どんな新人でもすくみ上ってしまいそうです。このリーダーは杉崎というのですが、この先ことあるごとに「お前は甘い」と厳しい顔で迫ります。
そんな堂本の弁護士としての初仕事は離婚調停。主人と離婚したいという奥さんとその娘から話を聞き、親権がどちらに行くのか考え始めた彼でしたが、杉崎は「そんな相談に時間を無駄にするな」と一蹴。憤慨する堂本に対し、杉崎はこう言い放ちます。
弱気を助け、強気をくじくための法律じゃないのか!? と常識が覆されるような思いになりますね。
いいや、そんなはずはないと、この一件を執念深く調査した堂本は、夫から妻へのDVがあったことを発見します。これで刑事告訴に持ち込むことが可能となった……
ところが。なんと夫は子供を実力行使で引き取ってしまいます。妻が子供を監禁していたため、「人身保護法」が適用されると主張したのです。夫側についた有能な弁護士の力によって。
母親から子供を引き離す法律なんて間違ってる、と叫ぶ堂本に対し、再び杉崎からキツイ一言。
この失敗を乗り越え、堂本はクライアントの依頼に応えることができるのか……?
原作者は現役弁護士で、扱う問題も少年犯罪や虐待と生々しくリアルです。勝つことが最善とされる弁護士世界で、自分の正義を貫き通そうともがく堂本の成長も面白いところです。
貧乏、されど情に厚い! 「貧乏篤実」弁護士
さて次は「法の庭」 (田原成貴、能田茂/サード・ライン) 。さっそく弁護士の説明を……といきたいところですが、この漫画の読みどころはなんと言ってもストーリーなので、最初はあらすじ紹介から。
まず主役は3人。この表紙でいうと、右の男性が田所、中央奥の女性が天海、左のメガネの男性が小泉といいます。彼らはかつて共に大学の司法サークルで学んだ友人であり、田所は裁判官、天海は検事、小泉は弁護士と、法曹界でそれぞれ別々の道を歩んでいました。
物語は、そんな3人が、とある強姦殺人事件をめぐって法廷で再会する章から始まります。
旧交を温める雰囲気ではもちろんないため、被告の陳述をめぐり、天海と小泉が激論を交わす中、田所は動揺を必死に押し隠そうとします。
実は被害者女性は、田所の長年の愛人であったのです……。
このあとの展開がめちゃくちゃ気になる……ところなのですが、それはいったん置いといて、「貧乏篤実」弁護士・小泉健吾の説明を。
国選弁護士として個人事務所を持つほどの小泉ですが、依頼が少なく、部下のボーナスも満足に払えないほどカツカツです。
田所・天海と法廷で再会し、天海を取り合った私怨も含め、切れ者の田所の頭を悩ませてやろうと意気込む彼でしたが、裁判中に田所が「真実の告白」、すなわち被害女性が愛人であったことを証言し、状況は一変します。
裁判後、すべてを失った田所を、小泉は自分の事務所に引き入れます。そう、なんだかんだ仲間思いなのです。ズボラな面も目立つ小泉ですが、弁護士としての篤実さもしっかり兼ね備えています。
以後、3人は再び親睦を深めつつ、法廷のあらゆる場面で活躍していきます。
しかし貧乏なのは変わらず、ティッシュ配りとか宣伝活動をしたほうがいいんじゃないかという田所たちの助言に憤慨する小泉なのでした……。
検事が絡むだけあり、題材も刑事事件が多く、どろどろの人間模様とひりつくようなサスペンスが醍醐味です。特に、絶望的な状況から勝利をもぎ取ろうとする小泉のパワフルさは圧巻です!
目指せ東大合格100人!! 「型破り」弁護士
「この人は弁護士というより教師では……?」
というツッコミが間違いなく来るでしょうが、本人が名乗っているんだから弁護士でいいんです!
そんなわけで、「ドラゴン桜」
(三田紀房/講談社)
です。
とにもかくにも型破りだらけの漫画であります。
落ちこぼれだらけの私立龍山高等学校の運営問題を任された駆け出し弁護士・桜木建二は、民事再生法に基づいて、事業の存続を提案します。それは、徹底した受験指導による超進学校を目指し、「5年後東大合格者を100人出す」ことでした……。
2003年に漫画雑誌『モーニング』(講談社)で連載が始まると、そのインパクトからたちまち人気を呼び、2005年には阿部寛主演でテレビドラマ化、同じ年の第29回講談社漫画賞に輝きました。
こちらが「型破り」弁護士・桜木健二。はじめ学校は清算するつもりでしたが、虎ノ門に弁護士事務所を構えてビッグになりたいという野望をいだき、再建に向けて精力的に動き始めます。
その経歴も異色で、なんと若いころは暴走族リーダー。借金を背負わされた父親の保険金自殺ですべて狂わされた彼が、よく弁護士になれたものだと感心してしまいます。そんな苦労あってか、常識にとらわれないようでいて、実際はかなりのリアリストだったりします。
進学校化に反対で、「一人一人の個性を尊重する学校を」と述べる教師に対して、桜木の反論。このあと「あんたそれでも教師かよ」と一刀両断すらします。あなたこそ教師じゃないのに。
龍山高校の教師陣にあきれ果てた桜木は、自分が特別進学クラスの担任になると宣言し、そろいもそろってチンピラだらけの生徒の前でこんな演説をぶちます。
バカは損して負ける。頭を賢く使い、ルールに従うのではなく、利用する。ここに、彼の弁護士としての信条が強く表れています。
ぶっ飛んだ受験漫画という印象が強いですが、実は社会を生き抜く知恵と言葉が随所に織り込まれていたりします。
でもやっぱり弁護士というよりは教師だよなあ……。
社会に出ると、トラブルというのはわりと頻繁に起きるうえに、何かとこじれやすいもの。ただ法律を当てはめるだけではなかなか解決しません。今回紹介した弁護士たちから、法についての知識を学びつつ、彼らの生きる姿勢に胸を熱くしてみてはいかがでしょうか?
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作者
にしのともき
1992年生まれ、長野県出身のフリーライター。活字を読むことが生きがいの中毒患者。小説、漫画、映画すべて楽しみ尽くしたいと手当たり次第むさぼる日々。好きな漫画は『寄生獣』。だいたい自宅か神保町にいます。記事タグ
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